言わずと知れた町田康の最高傑作といわれ、第41回谷崎潤一郎賞を受賞した作品である。
2年と少し前、新人研修で東京に行ったときに本屋に平積みにされていたのを見つけ購入した。
買ったはいいもの、この本のボリュームと、新人研修が思ったより忙しかったのもあってその時は読まず、そのままずっと本棚に寝かせっぱなしにしていた。
いつか読まねばと思っていたが、町田康の他の作品でまだ読んでないのもあったので先にそれらを読み終えてからじっくり読もうと思っていた。
そろそろ頃合かなと思い、思い切ってページをめくり始めた。
「そんな大袈裟な」と思われるかもしれんが、正直こんな分厚い小説読むのは初めてなのである。
だから読み始めるのには結構勇気がいって、途中で間があいてしまうともうダメなので、頃合を見計らって一気に読むつもりだったのだ。
本書は河内音頭で知られる明治時代の大量殺人事件「河内十人斬り」をモデルに描かれている。
明治時代の話なのだが・・・
安政四年、河内国石川郡赤阪村字水分の百姓城戸平次の長男として出生した熊太郎は気弱で鈍くさい子供であったが長ずるにつれて手のつけられぬ乱暴者となり、明治二十年、三十歳を過ぎる頃には、飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩す、完全な無頼者と成り果てていた。
父母の寵愛を一身に享けて育ちながらなんでそんなことになってしまったのか。
あかんではないか。(本書冒頭より)
「あ、あかんではないか」って・・・。
江戸時代から現代に一気に引き戻された。
独特の町田康ならではの文体は本書でも変わらない。
しかし他と比べ笑いはない。
主人公、城戸熊太郎は極度に思弁的な性格であり、思うことが上手く言葉に出来ない。
うまくコミュニケーションがとれぬ為、徐々に世間とのズレを感じ、世間もまた熊太郎を変人扱いするようになる。
熊太郎からすれば狂っているのは周りであり、「なんで俺だけ・・」と思い、いつしか自分は他のものとは違う特別なのだ、と思うようになる。
そして狂った歯車は最後まで狂い続け、最悪の結末を迎える。
人はなぜ人を殺すのか、河内音頭のスタンダードナンバーで実際に起きた大量殺人事件<河内十人斬り>をモチーフに、永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。殺人者の声なき声を聴け!(帯の一文より)
人はなぜ人を殺すのか。
自分から見れば、自分が正しいが、周りから見てそうだとは限らない
このズレをなくすことが出来れば・・・。
本書は実に哀しい話である。
正直、肩の力を抜き、完全に娯楽として読んできた他の町田康の作品とは一線を画すものである。
たまにはこういう本も読まねば思った。
どこの書評を見ても凄く評価は高いんだけど、万人向けではないと思う。
文体が鼻につく人も多いと思う。
そういえば、何故かこの本を読んでいてマーティン・スコセッシ監督のタクシードライバーを思い出した。